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新たなタイプの界面活性剤を有機合成し,それらの溶液物性を明らかにする

〒162-0826 東京都新宿区市谷船河原町12-1 東京理科大学工学部工業化学科

研究内容RESEARCH

ハイブリッド界面活性剤の合成と溶液物性


一分子内に疎水基として、フッ化炭素鎖と炭化水素鎖をもつ界面活性剤は、「ハイブリッド界面活性剤」と呼ばれています。従来の界面活性剤は疎水基として、炭化水素鎖のみを有しますが、疎水基を炭化水素鎖とフッ化炭素鎖のハイブリッドにすることで、従来の界面活性剤では見られない特異な溶液物性を示すようになります。当研究室では、ハイブリッド界面活性剤を合成し、新しい機能の探索と解明を行っています。

左の分子構造は、当研究室で合成されたハイブリッド界面活性剤の一つです。黄色=フッ素原子、白色=水素原子、灰色=炭素原子、赤色=酸素原子(酸素原子に囲まれた黄色は、硫黄原子)です。

ハイブリッド界面活性剤は、1992年にUnivesity of OklahomaのHarwell教授らにより初めて合成されました (J. Phys. Chem., 96, 6738 (1992) )。Harwell教授らは、当時の界面化学分野に新風を入れたいとの思いから、この界面活性剤を合成したようです。最初のハイブリッド界面活性剤は、分子構造的に電子求引性基であるフッ化炭素鎖と親水基である硫酸エステル基の距離が近く、加水分解を受けやすいものでした。このため、ハイブリッド界面活性剤の水溶液を調製後、24時間以内に物性測定を行う必要があったそうです。当研究室では、フッ化炭素鎖と親水基の間に、ベンゼン環(フェニレン基)やアルキレン基を導入し、フッ化炭素鎖の電子求引性が親水基に及ばないようにした構造のハイブリッド界面活性剤を世界で初めて合成しました。この界面活性剤は、加水分解されにくいため、ハイブリッド界面活性剤の特異な性質を明らかにすることができるようになりました。


特異な粘弾性挙動(ちょっと変わった性質)

ハ イブリッド界面活性剤の水溶液を調製すると、濃度が160 mM (10wt%) の時のみ、溶液がゲル化することを見出しました。これは、この濃度でひも状のミセルが多数形成され、ミセルの絡み合いが生じるためです。下の左側の写真 は、ハイブリッド界面活性剤の水溶液が入ったサンプル瓶を逆さにした様子で、濃度が160 mMのものだけ、溶液が下に落ちてこないことが分かります。右側の写真は、160 mM溶液のFreeze-Fractured SEM像であり、縞模様が見えます。縞模様の一つ一つがひも状ミセルの一つ一つに対応すしています。SEM像内の円模様は、界面活性剤の分子集合体の一つ である、ベシクル(二分子膜閉鎖小胞体)です。


1) Y. Takahashi, Y. Nasu, K. Aramaki, Y. Kondo, J. Fluorine Chem., 145(1), 141-147 (2013).

2) Y. Takahashi, Y. Kondo, J. Schmidt, Y. Talmon, J. Phys. Chem. B, 114(42), 13319-13325 (2010).

刺激応答性界面活性剤の合成と溶液物性

外部刺激に反応する官能基を有する界面活性剤を合成し、その溶液物性を外部刺激を用いて制御しようとする研究も実施しています。これまでに、酸化・還元活性な界面活性剤、光応答性界面活性剤、pH応答性界面活性剤等を合成してきました。

光応答性界面活性剤を用いた溶液粘弾性の制御


左の図に示す化合物はアゾベンゼン基を有し、紫外光照射でcis体へ、可視光照射または熱でtrans体へ光異性化します。その様子を分子のシルエットとして左下の図に示します。Trans体は直線状であるのに対し、cis体は屈曲していることが分かるかと思います。



ア ゾベンゼン基を含む界面活性剤の水溶液に紫外 (UV) 光を照射すると、その水溶液の粘度が上昇することを見出しています。また、この粘度が高い溶液に可視 (VIS) 光を照射すると、溶液は再び粘度の低いものへと戻ることも明らかにしてきました。界面活性剤は、初め水溶液中で球状ミセルを形成しますが、UV光の照射に ともなって、界面活性剤分子のアゾベンゼン基がcis体へ光異性化し、水溶液中でひも状ミセルが形成されることによるものです。

1) Y. Takahashi, Y. Yamamoto, S. Hata, Y. Kondo, J. Colloid Interface Sci., 470, 370-374 (2013).

光応答性界面活性剤を用いた光誘導解乳化


ま た、アゾベンゼン基を有するジェミニ型界面活性剤 (C7-azo-C7) を使うとエマルションの解乳化を光によって積極的に誘導できます。C7-azo-C7にUV光を照射すると、界面活性剤の中心に位置するアゾベンゼン基が 光異性化してcis体となり、界面活性剤分子のかたちが変化します。これにともない、界面活性剤分子が何かの界面に吸着している場合、界面活性剤分子がそ の界面で占有する面積に変化が生じ、結果的に界面張力にも影響が及ぼされることになります。このため、UV光照射により、安定なエマルションを積極的に解 乳化(相分離)させることができます。

1) Y. Takahashi, K. Fukuyasu, T. Horiuchi, Y. Kondo, P. Stroeve, Langmuir, 30(1), 41-47 (2014).



(上 の動画) C7-azo-C7と水およびOctaneを使って調製したエマルションにUV光を照射(左側のサンプル瓶にのみUV光を照射)すると解乳化が 進行し、油 (Octane) と水に相分離する。右側のサンプル瓶のエマルションにはUV光を当てていないので解乳化せず安定な乳化状態が維持される。

金属光沢のある低分子有機結晶の創製

最近、当研究室ではある種の染料をナノメートルオーダーで精密に並べると金色光沢結晶が得られることを見出しています。従来、金色あるいは金属色を呈する表面を得るには、金属の粉体を光沢源として含むメタリック塗料による塗装が必要でした。 従って、金属光沢を持つ表面には薄い金属粉の層が存在し、電波を遮蔽する性質が時々問題となっていました。 また、大型輸送機器へメタリック塗料を使った場合、機器の総重量は塗料中の金属粉のために重くなり燃費の低下につながると言われています。低分子有機化合物から得られる金属光沢は、これら2つの問題点を解決できる技術として期待されています。


上記の有機化合物をアセトンに溶解し、その溶液に水を加えたところ、金色光沢結晶が得られました。


この結晶の構造を解析したところ、有機分子がJ会合体を形成しながら、ナノメートルオーダーで精密に配列していることが分かりました。


1) A. Matsumoto, M. Kawaharazuka, Y. Takahashi, N. Yoshino, T. Kawai, Y. Kondo*, J. Oleo Sci., 59(3), 151-156 (2010).

2) Y. Kondo*, A. Matsumoto, K. Fukuyasu, K. Nakajima, Y. Takahashi, Langmuir, 30(15) 4422-4426 (2014).

3) 煖エ 裕, 近藤行成*, 色材協会誌, 87(12), 442-447 (2014).

新規金属クラスター化合物の合成と構造・物性探索

金属クラスターとは、複数の金属イオンが金属結合を介して多面体を形成し、その周囲を配位子が保護している分子やイオンで、発光や触媒作用など様々な興味深い物理・化学特性を示します。 特に、八面体型金属クラスターは、MoやTaといった5, 6族遷移金属からなる八面体クラスターの周りに14-18つのハロゲンイオンが配位した錯陰イオンとして、古くから知られています。 近年、ナノ材料や超分子を形成するビルディングブロックや、高効率な赤色蛍光体として応用研究が活発に行われています。 当研究室では、固体結晶としての性質に着目し、イオン置換をベースに新規な金属クラスター化合物を合成して、その構造や新奇物性の探索を行っています。


金属クラスターは対カチオンと配位してイオン結晶を形成します。結晶に青色光や紫外線を照射すると強い赤色光を発します。

1) N. Saito, S. Cordier, P. Lemoine, T. Ohsawa, Y. Wada, F. Grasset, J.S.Cross, N. Ohashi*, Inorg. Chem., 56(11), 6234-6243 (2017).

2) N. Saito, P. Lemoine, S. Cordier, Y. Wada, T. Ohsawa, N. Saito, F. Grasset, J. S. Cross, N. Ohashi*, CrystEngComm, 19(40) 6028-6038 (2017).

コロイド状ナノ結晶の合成と光電子機能化

有毒なCd系量子ドットの代替を目指し、有機/無機ハイブリッド組成のナノ蛍光体コロイドを作製しています。ナノ蛍光体の結晶表面を安定に保護する配位子の合成やその表面化学状態を明らかにし、光学的特性の向上を目指しています。


1) L. Ro, N. Saito, Y. Kondo, Influence of dispersing solvent on optical properties of lead halide perovskite nanocrystals, PACRIM13, Okinawa, Japan (2019).

2) 田中啓太, 斎藤典生, 近藤行成, ジェミニ型界面活性剤を用いた鉛ハロゲン化物ペロブスカイトナノ結晶の合成, 日本化学会2020年会, 東京理科大野田キャンパス (2020).


バナースペース

東京理科大学 近藤研究室

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